K
悪い人間ではないのかもしれないな。
何となく、そう思った。
「今日は吉野さんの話をしに来たのではありません。少しだけお時間いいでしょうか」
今は客もいない。
それにこれからも多分、来ない。
半日ここで座っているが、一時間に2、3人が来るか来ないかくらいだった。
「すこしなら」
ありがとうございます。
ほっとしたように息を吐く臼井は、ゴソゴソと鞄の中を漁り始めた。
短く切られた爪、年上であろうに俺に対しての丁寧な言葉使い、ちらりと見えた整理された鞄からは捜査の資料だろうか、紙の束が詰まっていた。
真面目なのであろう、絵に描いたような、正義だ。
「もうご存知かもしれませんけど」
臼井が取り出したのは、一枚の写真だった。
俺が座っていたテーブルにそっと置かれた写真を覗き込む。
そこに写っている人物を見て、息が止まりそうになる。
「これ…」
「木下百合さんを、ご存知ですね」
それは、皮肉にも数年前の文化祭のミスコングランプリのときの笑顔の彼女だった。