K


「まさか、百合さんまで…?!」


思わず立ち上がる。

一瞬、あの、クリーンベンチの中にいる百合さんを想像する。



ぶわり。


いやな汗がにじみ出る。

彼女と、目が、あった。





「すみません、落ち着いてください」

臼井に肩を掴まれる。

その衝撃にびくりとする。



「彼女はまだ被害にあったというわけではありません」

「まだって…」

「見つからないのです」



臼井の表情は、真剣で深刻さを物語っていた。

「職場にも、友人にも誰にも告げずに突然、失踪しました。前日までは、いつもと変わらない様子だったと聞いています」

「噂でも、聞いています。彼女、この学校では有名でしたから…」


しゃべりながら、元の椅子に腰掛ける。

軽いめまいがした。



臼井は手帳を開いて何かを書き込み始めた。

「そのようですね。職場でも優秀だったと聞きました」


才色兼備な女性。


それが、百合だ。



「何か、人間関係でのトラブルや最近変わったことはありませんでしたか」

「いえ、そのようなことは特に」

「そうですか。男性関係なども、何か聞いてはいませんか」


そう聞いて、あの澄ました男のことを思い出す。

まさか。

「刑事さん、まさか螢を疑っているわけではないですよね」








< 63 / 65 >

この作品をシェア

pagetop