言えない言葉は胸を焦がす。(K)
前書き
From美咲


吠舞羅のBARの扉の前でタバコを吸う。あいつが昔、誰にもバレないように吸っていた銘柄。この煙草を吸うときは決まって、寒い雨の夜...今日は朝から夜までずっとシトシトと雨が降っていた.....雨で消えそうなタバコの火種を能力の赤い炎で強くする。冷たかった手が煙草の炎で少し暖かくなる。そう、今日のような寒い、秋雨の日に猿古彦が吠舞羅から出ていったんだ。あれから、数年経った....。あの日、いままでずっと隣にいた猿古彦に、俺は、裏切られたんだ、裏切られた当時はとても腹が立って、淋しいなんて思ってなかったのに。今では怒りがいくらか落ち着いて裏切られた腹立たしさより隣に猿古彦がいないということが俺にとっては悲しい。
街中で猿古彦が使っていた柔軟剤の匂いをふと嗅いだり、似たような声を聴いたりするだけでも、その時の思い出が蘇り胸が強く痛むんだ。あの日のような雨の日の夜は自然と寂しさで身体の芯が冷える。数年経っても未だに消せない電話番号、消そうとしても結局無理だった番号...いつかかかってくるんじゃないかと期待をしてしまっている俺。携帯を握りしめ、いつも言えなくて消えていく言葉を呟いた。「猿古彦、俺の隣に戻ってきてくれよ....」雨の音が響く暗闇の中、かえってくるはずのない言葉を求めて。ふと、ため息をつく..............。
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