殺人鬼械の痛み
2029.7.2
翌日。
制服に着替えて身支度を整えた静華は、忘れ物が無いか確認しようと、勉強机の上を眺めた。
ふと静華は、机の上に置かれた野球ボールが目に留まり、手に取って眺める。
静華の脳内に、野球ボールを持って笑う浩太の姿が浮かんだ。
その野球ボールは、浩太の遺品だった。
あの遊園地の日も持っていて、ギリギリまで握っていた野球ボールだった。
それを思い出した静華は、少し考えてから、野球ボールを鞄の中に入れた。
同じ頃。
制服姿の翼は、勉強机の上のボロボロのヌイグルミを手に取った。
「今でも……」
小声でそう呟いた翼は、唇を噛み締め、ヌイグルミを勉強机の上に戻した。
学校での休み時間、静華は鞄から野球ボールを取り出し、一人で見つめていた。
それを見かけた鈴木麗衣(スズキ レイ)が、静華に近寄ってきた。
「静華、その野球ボール、どうしたの?」
静華は少し考えて、事実を話さない事にした。
「……八年前に交通事故で亡くなった、お兄ちゃんの遺品だよ」
「へぇ~、静華ってお兄ちゃんがいたんだね。知らなかった」
麗衣は、静華に兄がいた事に、心底驚いていた。
いつのまにかに、春奈が近付いてきて、静華と麗衣の話を聞いていた。
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