その恋愛は、恋愛ですか?
 今はもう、彼はアパートに一緒にいるときも、ほとんど私に興味を示さなくなってしまった。




 そしてまた土曜の夜がやってくる。


 この一夜をどうすれば平穏に明かせるのかと悩んだ末、私も外に出てしまおうと思いつく。


 どうせ、待っていても彼は朝まで帰ってこない。


 そうだ、どうせなら恋愛経験豊富な『先輩』に会って相談をしてみよう。

 




 待ち合わせは、先輩と二人でしょっちゅう通っていた大手チェーンの喫茶店。


 土曜日の夜ということもあって、辺りは大学生やカップルでにぎわっていた。


 注文を取りにきたウエイターさんに、「連れがきたら注文をします」と伝えて下がってもらうと、私は窓ガラスに映る、ひどくくたびれた自分の顔を眺めながらぼんやりと過ごしていた。



「よっ、ひっさしぶりぃ! あんたから連絡してくるなんてめずらしいね」



 その声に振り返ると、そこには有りえないほどの超美人の姿。


 他の席の男の人たちが、ジュースをすするふりをしながらその美人を見つめていたのがバレバレで、少し可笑しかった。



 先輩の名前は風見葉子《かざみ ようこ》。


 バイト先の二つ上の先輩で、知り合ったのは一年生の終りごろ。


 といっても、私はもうバイトはクビになったから、元バイト先、かな……。


 当時は先輩も別の大学の学生だったけれど、今は卒業してバイトも辞め、医療事務として働いている。


 出会った頃は、変な人に気に入られちゃったなぁ、くらいに思っていたけど、今では一番頼りにしている先輩だ。


 ブルーの半袖シャツにチェックのベスト。


 グレーのスカートは社会人にしてはちょっと短め。


 先輩は私の向かいにドカッと座ると、バレッタを外して、まとめられていた長い髪の毛を自由にしてやる。


 そしてそのスラリと長い足を大胆に組んで、ソファーの横から通路側に堂々と投げ出す。



 先輩は、どうやら遅番の仕事終わりにそのまま駆けつけてくれたようだった。



「お久しぶりです。半年ぶりくらいですかね」


「おうっ! ってか痩せたなー、ヨリ」


「痩せたっていうか、やつれたって言うか」



 私がそう言って苦笑いをしてみせると、先輩は「ふーん」と訝しげに私の顔を覗きこむ。


 そして、脈絡もなく注文用のボタンを押してウエイターさんを呼んだ。



「こっからここまで、全部頂戴」
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