その恋愛は、恋愛ですか?
 次々と運ばれてくる料理の数々が、ついにはテーブルの上を覆い尽くしてしまった。



「あのう、私あんまり食欲が……」



 先輩はナポリタンを口いっぱいに頬張りながら、「いいはらふえ」と私を睨みつける。


 私はパスタで膨らんだ先輩の頬を眺めながら、美人は台無しになっても美人なんだなと、世の中の不公平さを心の中で嘆いた。



「―――っぷはぁ。ほら、これだけあれば、一個くらい好きなもんあるだろ」



 先輩は口の中の物をビールで押し込むと、フォークの先端をこちらにむけて上下に振って見せる。


 ほんと、このひとは変わらないな。


 変わらず美人で、変わらず豪快で、変わらず優しい。



 私はサンドイッチを手に取って口に運ぶと、少しだけ微笑んで見せた。


 私もこんなに美人だったら、圭介もきっと……。


 そんなことが頭を過ったばかりに、すぐにまた表情が無くなってしまいそうになるのを、なんとか堪える。



 
 先輩はひとしきり食い散らかした後で、頬杖をついて目を瞑り、黙り込む。


 相談してみろと、そう言っているんだ。


 先輩はいつもこうだ。


 私が落ち込んでいるときは、何も言わずに話し始めるのをじっと待ってくれる。



「実は―――」



 私はことの一部始終を語った。


 口にすればするほど、どんどん惨めな気持ちになって泣きだしてしまいそうになったけれど、先輩の前では絶対に涙は見せたくない。


 先輩は強い人だから、きっと女々しいのは嫌いだし、なにより私は味方をして欲しくて話しているわけじゃない。


 純粋に、意見を聞きたかった。


 同情を誘う訳にはいかない。



 まあ、たとえ同情しても、先輩はいつも自分が正しいと思うことだけを言ってくれるけれど。


 先輩は盲目的に私の味方をしたりはしない。


 私が悪いときには「それはあんたが悪い」と斬り捨ててくれる。


 だからこそ、信頼できる。
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