その恋愛は、恋愛ですか?
「そんな……。先輩、お願いします!」


「うーん。でも、一応それでメシ食ってる奴だから、金かかるよ?」


「かまいません! 少しですけど、貯金ありますし!」



 そう、卒業したら結婚しようという彼の言葉を信じて、私は少しずつだけどお金を貯めていた。


 もちろん大切なお金だけれど、そもそも今のままじゃあ結婚自体がままならない。



「はぁ。そこまで言うなら仕方ないか……」


「あ、ありがとうございます! い、今からお会いできますか? そのひと」


「あんた、よっぽど切羽詰まってるね……。
さすがに今日はもう店仕舞いしてるよ。月曜日なら話を聞いてくれると思うけど」



 先輩はそう言って、腕に巻かれたいかにも高そうな腕時計に目をやる。


 私も、壁掛け時計を見つけて時間を確認する。



 時刻は21時32分。


 たしかに、普通の店ならどこも閉まっている。



 そんな、月曜までこのままなんて……。


 耐えられるかな……。


 でも耐えるしかないよね……。


 耐えられるといいな……。



「ちょ、どんだけ落ち込んでるのよ。
―――やれやれ、ちょっと待ってなさい」




 先輩はスマホをバッグから取り出すと、手早く画面を操作してそれを耳にあてがう。



「あ、もしもしゼンさん? ヨーコです。
レンさんはそっちに来てる? おっ、ラッキー。
今から行くから引き留めといてね。じゃっ」



 先輩は電話を切ると、バッグを掴んで立ち上がる。



「ちょっと店変えるよ、ヨリ」



 先輩はそう言うよりも早く、支払伝票をもってチャッチャと歩きだしてしまう。


 通路の脇に並んだ客席から、男性の視線が葉子先輩の方へと次々と集まっていくのがなんとも壮観だった。


 私は、その中の誰より熱い視線を背中に向けながら後を追った。
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