その恋愛は、恋愛ですか?
 私はそれこそ、恐竜に食べられたような気持ちで目を瞑ってしまっていたけど、不意に聞こえた大音量の音楽に思わず辺りを見回した。



 ああ、なるほど、ここって……バーだったんですね……。




 やっと状況を飲み込むと、私は改めて薄暗い店内を見回した。



 フロアの中央にはビリアード台が一台。


 ボールもキューも、ラシャの上に散らかってしまっている。



 いくつかテーブル席が設けられていて、一番奥にはカップルが一組だけ座っていたけど、あとの席はガラガラだ。



 L字のカウンター席には男性客が2人。


 それぞれがL字の長い棒の部分と、短い棒の部分に離れて腰を掛け、独りで飲んでいるようだった。


 というか、そのうちの一人は酔いつぶれているのか、カウンターにつっぷしてビクリともしない。



 一見すれば閑古鳥が鳴いているようだったけれど、閑古鳥の代わりに大音量で流れているハウスミュージックのせいで寂しいどころか騒がしい。


 壁や天井の至る所にレコードが飾られていて、スピーカーの横にあるブースでは二枚のレコードがせわしなく回転しているが、肝心のDJは見当たらなかった。
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