その恋愛は、恋愛ですか?
「ヨーコちゃん、いらっしゃい」



 カウンター越しに先輩に声をかけたのは、マスターらしき男性。


 先輩は軽く手を挙げてそれに応えると、マスターの正面に腰を掛けてこちらに手招きをした。



「おっ、今日はめずらしく女の子の連れかい?」



 マスターが歯を見せてそう言うと、葉子先輩は「勘弁してよ」と言って手首を振った。


 いつもは男の人と来てるのかな。



 私がおずおずと先輩の隣に腰をかけると、マスターはすぐに「何にする?」とメニュー表を指さした。



「私はいつものでいいわ」

「わかってるよ。そっちの可愛いお嬢さんに聞いたのさ」



 私が慌ててメニュー票を指でなぞっているうちに、マスターは先輩の目の前に淡い小麦色のお酒が入ったグラスを置いた。


 バーなんて来たことのない私は、何を頼めば変な顔をされないのかと悩んでしまう。


 なんだっけ、ドラマとかで大人がよく飲んでる、えーっと、ドライ……ドライ……マタニティー?



「この子も私と同じのでいいよ」



 先輩は私の困惑ぶりを察してか、頭を撫でながらそう言ってくれた。




 ほどなく目の前に置かれたグラス。


 私はその小麦色のカクテルを口に含んで、ため息を漏らす。


「美味しい」



 するとすぐに、マスターがニヤリと笑って親指を立てた。


 そしてそっとメニュー表の『シャンディ―ガフ』の文字を指さしてくれた。



 ひょっとして、このマスターが恋愛アドバイザーさんなのかな。


 いかにも女性慣れしてそうだし。


 マスターは、漫画やドラマに出てくるような、ベストとカッターシャツを着た上品な感じじゃあなくて、ダボッとしたTシャツに所々が破れたジーンズを履いている。


 首からは金のネックレスがぶら下がっていて、左手の指にはごつごつとした指輪が二つ、はめられていた。


 40才くらいかな?


 無精ヒゲと長めの髪の毛のせいで年はよく分からないけれど、派手な見た目とは裏腹に、瞳と物腰はとっても優しい。



「先輩、もしかしてマスターがアドバイザーさんですか?」



 マスターがDJブースに入ってレコードを弄っている隙に、葉子先輩に尋ねる。
< 23 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop