その恋愛は、恋愛ですか?
「ちょっとレンさん、私の連れに変なことしないで」



 先輩がすぐに飛んできて、私の手の甲を掴んでいた彼の右手を振り払った。



「あれ? ヨーコちゃん来てたんだ? ―――はっ! 
まさかマスターから俺の可哀そうな話を聞いて慰めにきてくれた?」


「んなわけないでしょ。今日は連れと飲みに来ただけよ」



 先輩は私を押しのけて彼の隣に座ると、「ヨリはこっち」といって反対側に私を座らせた。



「はっ! もしかして、俺の可哀そうな話を聞いて、そっちのカワイイ娘を紹介しに―――」


「だから違うってば。
まあ、紹介はするけどさ」


「マジで!? いやー、持つべきものは仕事仲間だよ。
今日はもう、独りでいたくないってカンジだったから、ほんと、助かる」


「なんで可愛い後輩を野獣の生贄に捧げないといけないのよ!
ったくだから紹介したくなかったのよ」



 先輩は存分にため息を吐き出して、めんどくさそうな顔をしていた。


 先輩とこの人って仕事仲間なんだ。


 ってことはまさか、恋愛アドバイザー兼、お医者様とか!?


 ひょっとすると、精神科医だったりするのかな?


 なんだか、すごい人なんだなあ……。



「それと、紹介するっていっても、恋愛相談の方よ」


「なんだ、そっちか」



 レンさんはこれ以上ないくらいがっかりした様子で、また元通り、テーブルに顔を埋めた。



「こっちは私の後輩で、幸田依子《こうだ よりこ》。彼氏ともめてる最中でさ。話、聞いてやってくれない?」



 先輩の問いかけに、レンさんは「ヴァ~」と、よく分からないうめき声で応える。



「はあ、だめだこりゃ。ヨリ、あんたにも一応紹介しておくけど、この酔っぱらいがあんたの話したがってた恋愛アドバイザー。実近恋次《さねちか れんじ》。28歳、独身、ダメ男」



 先輩が罵倒を混ぜて恋次さんを指さすと、彼は「どーも、電子レンジです」と、顔を伏せたままふてくされたように手を挙げた。



「お休みの所、押しかけてしまってごめんなさい、幸田です。よろしくお願いします」



 私がお辞儀をしてみせると、恋次さんはまた「ヴァー」とうめいたあとで、やっと顔を上げてくれた。



「今日はもう店仕舞い。閉店ガラガラ~。また月曜にでも事務所へお越しくだしゃいませ」
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