その恋愛は、恋愛ですか?
「ねえ、レンさん。もしかして別れる前提で話をしてない?」



 葉子先輩が恋次さんのスーツの裾をひっぱりながら言う。


 けれど、恋次さんは何も答えることなく、手帳とにらめっこをしていた。



「そ、そうなんですか? 私たち、もうダメってことですか?」



 私が尋ねると、恋次さんは溜め息の後で、手を合わせるようにして手帳をパタンと閉じる。




「むしろ、続ける気でいるのが驚きだね」



「ちょ、ちょっとレンさん!」



 葉子先輩は慌てて恋次さんの肩を掴んだ。


 正直、そんなに絶望的な状況だとは思っていなかった。


 


「この子は真剣に悩んでるのよ、彼氏と仲直りして、結婚を――――」


「ヨーコちゃん、落ち着いて。悪かったよ、確かに断定はできないね」



 恋次さんは前のめりになって手を組むと、私の目を真っ直ぐに見つめた。



「本題に入ろう。彼氏の浮気相手が誰なのか予想はついているはずだね? 依子ちゃん。でなきゃそこまで不安にならないはずだ」 


「あんまり疑いたくはないんですけど、さっき話に少し出た、後輩の田辺さんっていう可愛い子じゃないかなって……」



 田辺さんの家に泊まった日から、彼はサークルのある日には全く帰ってこなくなった。


 以前はそれでも、二回に一回は帰ってきていたのに。



 私は改めて、そのいきさつを細かく話した。



「―――という感じです。けど、そもそも彼が浮気したって決まっているわけじゃありません」



 私は少しムキになってそう言った。


 けれど、恋次さんは私の必死の言葉を鼻で嗤う。



「彼氏がその田辺って子とヤッてるかどうかは問題じゃない。浮気自体はもう成立してるんだよ」


「ど、どういうことですか?」


「といっても、実証できるかどうかはまた別の話しだけれどね」



 答えになっていない。


 浮気が成立してるってどういうことなの?



「あとは、彼が浮気で満足するか、本気になるのか、いや、あるいは既に本気になっているのかって点だ」


「ほ、本気になってたらとっくに私と別れているはずです」



 私は援護を期待して、ちらりと葉子先輩の方を見るが、先輩はすぐに目を瞑って逸らしてしまった。



「やれやれ、本当に君は純粋で可愛いね」

 
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