その恋愛は、恋愛ですか?
 田辺さんは、確かにアパート暮らしだけれど―――。



「ルームシェアしてる友達がいるって、聞いたことがあります……。
その友達には彼氏がいて、帰ってこない日も多いらしいですけど」



 恋次さんは、やれやれと言ってため息を吐き出した。



「彼氏の浮気相手が田辺って子だとしよう。
だとしたら、彼氏がいくら田辺さんと一緒に暮らしたいと思っても、他の人間も住んでいるアパートで一緒にってわけにはいかない。
君のアパートに戻ってくる理由、っていうか、君に別れ話をしてこない理由はそんなところなのかもしれないね」



 彼氏はなぜ出ていくのか、ではなく、彼氏はなぜ戻ってくるのか。


 恋次さんはそういう観点で最初から話をしていたんだと、このときに気が付いた。


 つまり、恋次さんの中では、彼氏が浮気をしていることが前提なのだと。


 そして、その浮気相手は田辺さんで間違いないと、そう考えている。



 恋次さんの話を、これ以上聞くのは怖かった。


 けれど、私はつい、尋ねてしまった。



「恋次さんは結局、彼氏が今どんな状況だと考えていらっしゃいますか?」


「いや、僕にも本当のところはわからないよ? 
今まで相談を受けたケースのどれに似ているのかって照らし合わせて、邪推しているだけさ」


「じゃあ、その邪推だけでも聞かせて下さい」


「いや、これ以上はやめておこう。それこそ、君が月曜日まで耐えられなくなる。
それに、くどいようだけど、あくまで僕の考えは荒んだ恋愛観からくるただの邪推だ。聞くだけ損だよ」



 恋次さんはおどけた調子でそう言う。



「恋次さん。
私は今、恋次さんのこと、すごいと思っています。
自分でも気が付かないようなことに、恋次さんは話を聞いただけで気が付いてしまう。
参考までにとどめておきますから、ぜひ、聞かせて下さい」



 そう、恋次さんと話をしたこの数十分だけで、私はすごく賢くなれたような気がしていた。


 恋次さんの『邪推』を聞くのは怖いけれど、今は圭介と対等に話をするための知識や心構えが欲しい。



「ヨリ。
レンさんの本職はさ、探偵なんだよ。だから基本的に人を疑ってかかるのが仕事なの。
まだ彼氏が浮気をしてるって決まったわけじゃないし、月曜日まで大人しくしてなさい」



 葉子先輩はそういって、私の肩に両手をそっと乗せた。


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