その恋愛は、恋愛ですか?
「あの人、どうにも疑り深くって、ダメだよ」


「でも、探偵さんなんですから、それがお仕事です」



 私が先輩の言葉を借りて言うと、先輩は「違いない」と言ってお茶を口に含んだ。



「すごく勉強になりました。相談して本当によかったです。
でなきゃ、今頃は自分のアパートで膝を抱えているだけでしたし。
紹介してくれた先輩のおかげです」



「ほんと、可愛いねえ、この子は」



 先輩はそう言って、目を細めながら頭を撫でる。


 もしも先輩が男だったら、私も浮気しちゃいそうです。


 と言うのはやめておいた。


 せっかく一段落した暗い話を、また蒸し返してしまいそうだったから。



「あのあと、恋次さんとどんな話をしてたんですか?」



 私が尋ねると、先輩は頬杖をついて、眉をしかめる。



「んー、なんて言えばいいのかな」


「もしかして、恋次さんの言ってた、邪推、の話しですか?」



 思わず喰い付いてしまった。


 また暗い話になってしまう……。


 でも、ずっと気になっていたから、つい……。



「一応、伝言みたいなものを預かってはきたんだけどね、またあんたが落ち込んじゃうだろうから……」


「なんですか?」

「やめとく」


「先輩、隠し事するの苦手なの、知ってますよ。
ほら、話して楽になっちゃいましょう」



 なんだか、警察の取り調べのような雰囲気になってきた。


 故郷のおふくろさんも泣いてるぜ? というセリフが浮かんだけれど、もちろん口にはしていない。



「やれやれ。一応伝えるけど、あの人の言うことをなんでもかんでも真に受けちゃだめだからね」


「はい、分かってます」



 明るい調子で、平静を装って返事をしたけれど、胸の鼓動の音が先輩にばれていないかと心配だった。



「君が幸せになる唯一の方法は、すぐにでも君から彼氏を振って、二度と連絡をとらないことだ。だってさ」



 一瞬、心臓を貫かれたかと思ってしまった。


 まるで、死の宣告を受けたかのような気持ちだった。



「……そう、ですか」


「レンさん、彼氏が浮気をしてるって決めつけてるんだよなあ。
気にするなよ、ヨリ」


「わ、分かってますよ」
 


 分かってる。


 探偵さんだものね。


 私は心の中でそう繰り返す。
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