その恋愛は、恋愛ですか?
 結局、日中は延長に延長を重ねて、6時間もカラオケで過ごした。


 そのうちの5時間は先輩のオンステージ。


 先輩はそれでやっと喉の調子が悪くなって、続行をあきらめてくれたのだった。




 先輩のアパートに戻ったのは夕方の5時過ぎ。



「うーん。やっぱ齢のせいなのかなぁ。最近声がでないんだよねえ」



 先輩はそう言って、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して口に含むと、ウグウグとうがいをしてから、そのままごくりと飲み込んだ。


 普通、あれだけ全力で歌えば2時間くらいで声が出なくなりますってば……。


 ほんと、このひとのエネルギーってどこから湧いてくるんだろう。


 体の中に原子炉でもあるんじゃないかって、真面目に疑いそうになる。


 そもそも、齢のせいって、まだ今年で24でしょうに。



 私はため息交じりにテーブルに腰を掛ける。


 そして、目の前に置いてあったコンビニのビニール袋を見て、また胸がざわつき始める。



「先輩、スマホ、見てみてもいいですかね……」



 私がおずおずと言うと、先輩は「見てどうするの?」と淡泊に言い放つ。



「もしかしたら彼氏からの連絡があるかもしれませんし……」


「いやだから、それを見てどうするの?」



 先輩の言わんとすることは分かる。


 どんなチャットが入っていようと、急いで彼のところに飛んで行きたくなるだけだろうと、先輩は言っているのだ。


 それじゃあ結局、今までと何も変わらない。


 私は、彼の思い通りに動くだけの人形に変わりがない。


 分かってる。


 恋人が帰ってこない夜の不安な気持ちを、彼に理解してもらうためにここにいるんだった。



「そうですね……。今日は見ません。明日返ってから、直接バトルします」


「うん。それでいい。ピザでも頼もっか」



 先輩はそういって、玄関のポストからゲットしてきた宅配ピザのチラシをひらひらと振って見せた。
< 44 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop