その恋愛は、恋愛ですか?
 玄関に入るとすぐに、脱ぎ捨てられた圭介のスニーカーが見えた。


 居る。


 突き当りの部屋のすりガラスが、蛍光灯の光ではっきりと明るくなっている。


 彼は今、部屋の中にいる。


 いつもならほっとしているところだけれども、今回ばかりは背中に電流が走ったような気分だった。



「ただいま」



 私はそろりとミュールを脱ぐと、圭介に聞こえるかどうか怪しい程度の小声でそう呟く。



 そして、震える手で部屋のドアノブを掴むと、力無くそれを押し開けた。



「うおっ!!」



 圭介は跳び上がりそうなほどに驚いて、というか、実際に少し跳びあがってこちらを振り返った。


 と、同時に、ゲームのコントローラーが勢いよく床に落ちた。


 テレビの画面に映っていたのは、おどろおどろしいゾンビの姿。


 圭介が驚いているうちに、そのゾンビたちは画面を真っ赤に染めてしまった。



「心臓止まるかとおもったじゃん。ただいまくらい言ってくれよ」



 圭介はため息交じりにゲームの電源を落とすと、テレビのリモコンを弄ってバラエティー番組にチャンネルを合わせる。



「い、一応言ったんだけどね」


「まじ? ゲームしてて気づかなかったわ。あー、ビビった」



 なんだか、圭介の様子がいつも通り過ぎて、肩透かしを喰らった気分だった。


 けれど、それが逆に不気味で、私は手の震えがばれないように祈るばかりだった。



「ごめんねちょっと、友達の家に泊まってた」



 頭の中が真っ白になってしまっている私は、何を思ったのか、いきなりジョーカーを切ってしまった。


 彼の反応を見るために二日もお泊りしたというのに、これじゃあ台無しもいいところだ。


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