サヨナラからはじめよう
「涼子さん・・・」

事務所に入ると真っ先に中村君と目が合った。
当然のことながら彼は私の姿を見てかなり驚いていた。
でも私の様子から何かがあったのだろうと瞬時に察すると、それ以上は何一つ聞いてくることもなく仕事に取りかかった。

彼のこういうところは本当にありがたい。
この前まではどこか何か言いたそうな様子だったけれど、
私が聞かないで欲しいオーラを出してさえいれば一切余計なことは言わない。
そこに私はこれまで何度も救われている。

「中村君、週末久々にやるから」

突然私にそう言われてポカンとしていたが、すぐに何のことかがわかったのだろう。
嬉しそうに笑って頷いた。

「わかりました。久々なので僕も楽しみにしてます」


あいつのことが原因で仕事に支障を来すようなことは絶対にしない。
大事な大事な展示会だって間近に迫っているのだ。
もう何の関係もないあいつのせいで少しの影響だって出したくない。



そのプライドと意地で私はいつも以上の気持ちを入れて仕事と向かい合った。
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