サヨナラからはじめよう
司は縋るような声で私を呼び止めた。
それでも私は振り返ることはなかった。

どうして放っておいてくれないの?

あんたが何を言ったところで、それは勝手な自己満足に過ぎないというのに。
どんな理由をつけられたって過去もこの前のことも消すことはできない。
そこまでして私に拘ってどうしたいっていうのよ?

私の願いはただ一つ。
もう関わらないで欲しい。
そっとしておいて欲しい。
・・・これ以上傷口を広げるようなことはしないで欲しい。

ただそれだけなのに。



結局、司はそれから毎日帰宅時に待ち構えていた。
比較的早く帰った日も、うんと遅くなった日も、
あいつは決まったようにマンションの前で待っていた。

一体いつから待っているのか?
そもそもあんたは『社長』なんじゃないの?
そんなに仕事に穴を開ける社長がこの世のどこにいるっていうのよ。
会社が傾いちゃうわよ!


・・・あぁほら。
気が付けば結局こうやって余計なことで悩んでしまうのだ。
だからもう関わりたくないのに。

イライラは募るばかりだ。
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