サヨナラからはじめよう
「涼子さん、ほらしっかり歩いてください」

「う~ん、歩いてるってばぁ!」

完全に千鳥足の私の肩を支えながら中村君はタクシーを降りる。
彼がいなければ間違いなくその場に倒れ込んでいることだろう。

あれから長くせずして飲み会はお開きとなった。
すっかり酔っ払った私は満場一致で中村君に委ねられた。
誰かが「送り狼になっても許す!」なんてふざけたことを言っていた気がする。

「すみません、俺があんなこと言ったからですよね。・・でも俺本気ですから」

一度立ち止まると彼は真面目な顔であらためてそう言った。

彼が本気なのはよくわかった。
・・・だからこそもう少し時間が欲しい。
またこれまでと同じように流されるのだけは絶対に嫌なのだ。

フラフラな体を何とか起こして自分の足で立つと、中村君を見た。

「中村君の気持ちはありがたいよ。だからこそちゃんと考えたい」

「涼子さん・・・」

「送ってくれてありがとう。もうすぐそこだし後は自分で帰れるから」

そう言うと目と鼻の先にあるマンションの方へと体を向けた。


が、その足はその場でピタリと止まってしまった。

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