サヨナラからはじめよう
「3年ぶりに会った彼は記憶を失っていた。はじめは私も拒絶したけど、結局は受け入れてしまった。それは彼を放っとけなかったから。・・・・でも彼は早い段階で記憶を取り戻していた。安易に受け入れてしまった私の自業自得と言われればそれまでかもしれません。でも、彼が私に嘘をついていたことに変わりはない」

神妙な面持ちで私の言葉を聞いているカナさんに私は弱々しく微笑んだ。

「彼と色々ありましたけど、私にとって浮気以上に辛かったのは嘘をつかれたことなんです。もうしない、そう言って彼は同じ事を繰り返した。その真実がどうだったのだとしても、そのことで私の心にも傷が残ってしまった。・・・・嘘をつかれることへの恐怖心は消えることはないんです」

「涼子さん・・・・・」

「でも、こうしてあなたが真実を話しに来てくれたことには感謝しています。ある意味では吹っ切って前に進めるかなって思えるから。・・・ありがとうございます」

そう言って頭を下げた私の上から嗚咽する声が漏れてきた。
驚いて顔を上げると、カナさんは顔をグシャグシャにして泣いていた。

「カ、カナさん・・・?」

「っあのバカ男!だから私はやめとけってあんなに言ったのに!・・・・こんなにいい子を傷つけて、ほんとにバカバカバカ、大バカ者よっ!!!!」

そこまで言うとついには床に突っ伏してわんわん泣き出してしまった。
私は呆気にとられてただその姿を見つめることしかできなかった。
< 176 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop