サヨナラからはじめよう

「・・・あら?もしかして三国さんの知り合いなの?」

「・・・・・」

問いかけに何も答えることが出来ずにいる私を齋藤さんは不思議そうに見ている。
やがて私の手が微かに震えていることに気付くと、何かを察知したのかそれ以上は何も聞いてはこなかった。

「その雑誌、あなたにあげるつもりで持ってきたから、また家に帰ってゆっくり見たらいいわ」

それだけ言うと、彼女は全く違う話題へと変えた。


その後は他の人も交えて飲み会は大いに盛り上がったけれど、
正直あれからのことはほとんど覚えていない。
それでもきちんと笑い、会話も成立させている自分はいつの間にかすっかり社会人になったんだな、なんてどうでもいいことをぼんやりと考えていた。


ずっとドキドキがおさまらない。
まさか司がそんな有名人になっていたなんて。
確かに彼は建築士としての道を歩んでいた。
それでも3年前はまだ一会社員に過ぎなかった。
この3年の間に一体どれだけのことがあったというのだろうか。

「3年」という時間の重さをあらためて感じずにはいられなかった。


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