サヨナラからはじめよう

「・・・・・ふぅ」

あれからマンションに帰ると真っ先にシャワーを浴びて一日の汚れを落とした。
それから寝るまでにすることを一通り済ませると、
ソファーに座って一冊の本と向き合った。

そう。
齋藤さんがくれた例のあの雑誌だ。

ここには私の知らない司がいる。
彼が私の知らない3年を一体どうしていたのか、少し垣間見えるかもしれない。
見ることが一瞬躊躇われたけれど、偶然とはいえ齋藤さんを通して私の手元にやって来たことにも何か意味があるのかもしれない。
いい加減全てのことから逃げるのはやめて、せめて本くらいには向き合ってもいいんじゃないか。

不思議とそう思えた。


一度大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと雑誌を手にとって開いた。

あらためて最初のページからパラパラと捲っていく。
そして最後まで目を通して手が止まったのは唯一あのページだけだった。

司がデザインした建物の数々。
彼が設計したものだったなんて全く知らない。
それでも私の目を奪ったのは彼の作った作品達だ。
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