サヨナラからはじめよう
涼子へ


まずは君を騙すような形になってしまったことを謝らせてほしい。
本当に申し訳なかったと思ってる。すまない。
こんな俺が言っても信じてもらえないかもしれないが、
はじめから騙すつもりだったわけじゃないということだけは信じて欲しい。

あの日、俺は無我夢中で君の住むマンションへと向かった。
今更何のつもりだと君に罵られようとも、どうしても君に会って話したいことがあった。
だが目的地を目の前にしたところで飛び出してきた自転車と激しく接触した。
幸い大きな怪我はしなかったが、俺は転んだ拍子に頭を打った。
立ち上がった時には自分が何故そこにいるのか既にわからなくなっていた。
今思えば一時的な軽いショックを起こして記憶が飛んでしまっていたのだろう。

・・・不思議だが、何一つわからない中でも何故か君のマンションへと足が動いていた。
自分でも無意識だった。
でも徐々に頭が痛くなって・・・それで蹲っていたところで君が帰ってきた。
そこからのことは涼子も知っているとおりだ。

数日後、君を受け止めようと倒れた拍子に記憶が戻った。
嬉しいよりもどうしようという戸惑いの方が大きかった。
何故ならこれで君の傍にいられなくなるかもしれないと思ったからだ。
俺は君の傍にいたかった。どんな理由でもいいから。
一分でも一秒でも長く、一緒にいたかった。

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