サヨナラからはじめよう
「これが司の作り出す家なんだ・・・」


私は素直に感動していた。
過去の事なんて関係ない。
ただただ、彼が作り出した空間が心地よかった。


自分が暮らしたいと夢見ていた家は、まさに今ここにあった。



元々彼は人目を引くセンスを持った人だった。
初めて出会ったときだって、彼の設計図に一目惚れした私が思わず声をかけてしまったのがきっかけだった。もちろん私には設計図しか見えてなくて、彼とお付き合いが始まるなんて事、その時は夢にも思っていなかったのだけれど。

彼なら早いうちに一級建築士の資格を取るだろうとは思っていた。
だけど実務経験を積みながらではそんなに簡単なことではない。
ましてや若くして独立して成功を収めるなんて、ほんの一握りの人間にしかできることではない。

・・・きっと、彼は想像を絶するほどの努力をしたのだろう。
私と一緒だったときも、・・・・別れてからも。

それが今こうして花開いている。


彼の才能に誰よりも惚れ込んでいた者として、
それは誇らしくもあり、素直に嬉しかった。

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