サヨナラからはじめよう
彼が創り出した空間に酔いしれつつ、一つ気になることがある。

「・・・今ここに住んでるんだよね・・?」

そう。司は今この家に住んでいるはず。
それは先程のコンシェルジュの話からも間違いのないことだろう。

・・・それなのに。
今目の前に広がる空間には生活感というものが全く感じられない。

どの部屋にも家具、家電はおろか、カーテンすらつけられていない。
外光を遮ることができているのは障子のある和室だけだ。
その和室に唯一ぽつんと置かれたもの。
それは一組の布団。
おそらく彼が使っているだろうその布団以外は、
彼がここで生活しているとはとても思えない室内になっていた。

「食事とかどうしてるんだろう・・」

キッチンにあらためて行ってみると、やはりそこには調理器具も調味料も何一つなかった。ただ一つ、ペットボトルが数本入る程度の小型の冷蔵庫が無造作に床に置かれているだけ。
中を覗いてみると水と数本の缶ビールが入っているだけだった。

彼はこんなに寂しい空間でずっと生活しているのだろうか?

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