サヨナラからはじめよう
「仕事も軌道に乗る中で俺は決めたんだ。涼子と描いた理想の家を作ろうって。たとえ俺だけの自己満足で終わってしまったとしても、最後までやり遂げると決めた。それでようやく完成したのが・・・」

「ここ・・・?」

私の言葉に司は静かに頷いた。

やっぱり・・・
ここは司の夢でもあり私の夢でもある家なんだ。
だからこんなにも私の心を捉えて離さないのだろう。

「本当は完成したらすぐに涼子の元へ行くつもりだった。
・・・でも急に怖くなったんだ。また俺の勝手で涼子を振り回すことになるんじゃないか、もしかして他の誰かと幸せに暮らしているんじゃないかって。そう考えだしたら止まらなかった。・・・でも、悩んでいるうちに俺のデザインが賞を受賞することがわかったんだ。その知らせを事務所で聞いたとき、俺は何も考えずに飛び出していた。体が勝手に動いたんだ。・・・君の元へ」

「・・・それがあの日だったってこと・・・?」

司は大きく頷く。

「本当に無意識だった。いや、本能だった。だからスマホも財布も何一つ手に取ることすらしていなかった。・・・ただ一つ。いつでも君に渡せるようにと常に肌身離さず持ち歩いていたカードキーを除いては」
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