サヨナラからはじめよう
・・・・・・
・・・・・・トクントクン・・・
どれくらいの時間が経っただろう。
泣いて、泣いて、泣いて、ひたすら泣いて。
もう声が出ないほど喉はカラカラになって。
顔は涙で見られないほどひどいことになっていて。
司の仕立ての良さそうなスーツは私のつけた鼻水やファンデーションでそれはそれは悲惨な有様になっていて。
それでも。
今包まれているこの場所が、
自分を包み込んでくれているこの手が、
耳元から聞こえてくる心臓の音が、
その全てが信じられないほど気持ちよくて。
まるでふわふわと浮いているような高揚感で満たされていて。
・・・やっと一番安心出来る場所に戻ってきたんだって、そう思えるんだ。
私はこのどうしようもない弱虫な男のことが今でも好きなのだと、
ようやく気がついた。
「涼子・・・・」
絶対に離さないとばかりに司の手は寸分の緩みもなくがっちり背中に回されたままで。
時折私の髪を優しく撫でる。
まるで愛を囁いているように優しく、優しく。
それだけでまた涙が出そうになってしまうんだ。