Murasaki
とある夏の日

1.



 その日は確か、とても暑かった。

 大して広くも狭くもない体育館に、きっちりと整列する中学生。ちゃんと並んではいるけれど、人数が多いせいでちょっと窮屈だったのを覚えてる。

 とある県立高校の、学校見学。
 そこからすべてが始まった。多分。


 やたら朗らかな校長がする挨拶。
 どこも似たような話だな、と思っていたのが、途中からただひたすらあんぱんについて語り始めたのには正直驚いた。
 高校ってこんなものなのだろうか。のほほんとしているというか、平和ボケというか。一応進学校のはずなのだが。

 そんなことをぼんやり考えていれば、いつの間にやら話が終わっていたようで。
 指示に従って体育館から外の通路に出れば、よくわからない建物が並んでいた。案内役の先生がばばばっと説明してくれたけれど、当然覚えられるはずもなく。
 受かって、自分で使うようになれば覚えるのだろうか。

 ぼーっと頭で考えつつも、前の人についていけば、よくわからない部屋にたどり着いた。先生の指示で窓側に座った人が窓を開けるも、この部屋もなかなか暑い。
 おかしいな、この高校クーラー付いてるって聞いてたんだけど。この部屋だけ…であってほしい。

 この部屋では、学校案内のビデオを見させられた。
 たった1,2年しか違わないはずなのに、登場する先輩方がやけに大人びていたことがすごく印象に残ってる。私も、こうなるのだろうか。変われるのだろうか。
 内容自体は他に見学に行った学校と大して変わらない様に思えた。ただ、ここでもあんぱんの話題が出るとは思わなかったが。どんだけあんぱんが好きなんだ、この学校は。




 その後さらに集団を半分に分け、それぞれ別の場所にまた移動させられる。
 今度の部屋はクーラーあるよー、と楽しそうに言う先生につられて自分も笑顔になるのが分かる。やっぱり、クーラーって重要だ。

 通されたのはおそらく通常授業を行うであろう、普通の教室だった。確かにクーラーがちゃんとついてる。
 気を利かせてくれたのか、教室は涼しくなっており、外との温度差に体が震えるほどだった。

 指定された席に着けば、目の前の席が同じ学校の友人で、これから始まることについて二人で思いを巡らせた。
 いろいろ選ぶことが出来た中から、選択したのは「模擬授業体験コース」。教科は指定できなかったので、すごくワクワクしながら確認したのに、どうしてか数学で。

 私は、何よりも数学が苦手だった。
 算数は普通に出来たのに、中学に入ってからどうにも楽しくなくて避けていれば、ますますよくわからなくなって。

どんなおっさんが来るのか。ヒステリックなおばさんかもしれない。
まあ、時間も長くないし、適当にやっていればすぐ終わるだろう。
そう思っていた。


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