Murasaki

2.


「我が校きっての二枚目!数学担当の●●先生です!」

そんなことを、言っていた気がする。
さっきまで案内をしてくれていた先生の紹介で入ってきたのは、おじさん、と呼ぶのが申し訳なく見えるほど若いっぽい男の先生だった。
正直先生の年齢なんぞ気にしたことなかったけど、今まで会った中で一番若いっぽいような気がした。

こなれた風にスーツを着こなし。
身長は…普通?特に高いわけではなさそう。
顔は、正直なかなかイケメン。
そんなことないですよ、と言う声は予想よりちょっと高くて。

確かに、二枚目って紹介されるだけあるなって思った。
結構好みだとも思った。

当時携帯小説も流行っていたし、少女マンガ脳な私は一瞬変な妄想に飛びそうになった。
けれど、先生と生徒が…なんてフィクションだから面白いってことも、自分らは先生と生徒って関係ですらないこともよくわかっていた。

そんなことを考えているうちに、今日の教材と思われるプリントが回ってきた。


…これはなんだ。
高校の授業を体験しよう!という雰囲気だから覚悟はしていたものの、まったく訳が分からん。

一定間隔をおいて並べられた数字たち。
最初のは分かる。左に書かれた数字から右隣の数字を引けば2になる。
次のも分かる。左に書かれた数字に3をかければ右隣の数字になる。
次のはなんだ。引いても足してもかけても割ってもどうにもならない。
法則がある、とイケメン先生は言うけれど、絶対無い。ひっかけ問題だ。
必死に頭をひねって、あーでもないこーでもないと悩んでいれば、ふと影が差した。

…なんで覗き込んできてるのか。
やめてくれ。今の状態は人に見せていいものじゃない。
どうしても見られたくなくて、腕で隠すようにしながら書いた。今となってはどうしてそんなに嫌だったのかわからないが。
少し首をひねって凝視してくる先生からどうにかプリントを隠そうとしつつ、問題を考えた。

クーラーがガンガンに効いているはずなのに、首筋がすごく熱かった。
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