恋愛奮闘記
シュウさんは何も言わずに私を抱き締めている。
これが最初で最後だ、というように。
「ねえ、シュウさん。またお店に行っていい?」
「…来なかったらぶん殴る」
ありがとう、優しい優しいシュウさん。
私はその優しさに甘え過ぎてたね。
「上手くいかなかったら承知しねえぞ」
叶わないとわかっていても気持ちを伝えてくれたシュウさん。彼なりのケジメであり、区切りなんだろう。
私に、エールの気持ちを込めて。
「うん。…うん。ありがとう」
「ああ、これで俺も前に進める。頑張れよ、司」
そしてそっと私を解放し、ニヤッと笑った。
シュウさんがいなかったら。
私はあのバーに通うこともなく、背中を押されることもなく、ずっと足踏みするだけだったかもしれない。
ごめんね、もう心配かけないから。
勇気をもらったから。
夜はだいぶ冷え込む。
だけど寒さも忘れるぐらい、優しい気持ちに包まれる。
苦くて甘い缶コーヒーはまだほんのり熱を持っていて、まるでシュウさんみたいだと思った。