恋愛奮闘記
「いや、実は…あ、これ言って良いのかわかんないんで俺が喋ったこと内緒にしてくださいよ。
早坂さんに俺が聞かれたんすよ。
矢野さんと特別な関係なんですかって」
はいいい!?
ますます訳がわからない。
岩佐くんは後輩であって、それ以上でも以下でもない。こういう職種だからコミュニケーションは大事だし仕事仲間にしては仲が良いほうかもしれないけど、それだけだ。
もちろんプライベートで遊んだことなんてないし、可愛い後輩だと思ってる。
私にとって岩佐くんとはそういう存在だ。
そもそも、確か早坂さんには彼氏がいないことを言ったような気がする。
「どういうこと…?」
「だから俺、全力で否定したんすよ。
俺には大事なむちゃくちゃ可愛い彼女が他にちゃんといるって」
おい。さりげなくのろけるな。
「そしたら、すいません勘違いですって謝ってきて。とりあえずなんでそんなこと思ったのか興味あったから聞いたんです」
橘さんはまだカットが終わっていないようで、バックルームには誰も入ってこない。
フロアとは違って静かな空間のなか、岩佐くんの言葉を一字一句逃さないように聞く。
「どうもこないだ俺が髪切ってもらってる時、店の前通ったらしくて」