恋愛奮闘記


「俺、美容師ってすごく良い仕事だと思う」


唐突にそんなことを言われた。



「美容師ってさ、周りが見るよりハードな仕事で好きじゃないと続かないって聞くよ。
で、お洒落な人ばっかりだよな。それってやっぱ客が”この人に担当してほしい”って思えるようにしてるんだろうなって思うし、憧れの対象にもなるんだろうって」



驚いた。

それは美容師なら誰もが考えていることで、そうありたいと思っていることだ。

違う職業の人がそこまで汲み取ってくれることはあまりない。



「矢野さん見てるとさ、仕事好きなんだろうなってわかるよ。
好きなことを仕事に出来る人なんて今の世の中少ないと思うんだよ。好きなことだからこそ、仕事にしちゃうと理想との違いに挫折する人もいる。
それを努力でモノにしてるんだから、ほんとすごいと思う。
だから胸はって自分の好きな格好してたら良いと思うけどな、俺は」



「早坂さん…」



「あ、ごめん俺偉そうに何いってんだろな」


「…ううん、嬉しいです。すごく」



照れてるのか、早坂さんはこっちを見てくれない。



「そうやって欲しい言葉をくれる人、なかなかいないです。ありがとうございます」



ほんとにもう、どこまで好きにさせたら気がすむの。
これで惚れるなっていうほうが無理だ。


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