のざとの丘
野里の丘
---生まれ変わったら何になりたい?
言葉に詰まって咄嗟に出てきた、
そんなありきたりな問いかけ。
途端に恥ずかしくなって、
真っ赤な顔で俯いて
---けれどじっと、
耳をすませて言葉を待った。
気まずくなって、笑ってくれてもいい。
呆れてくれてもいい。
何か少しでも言葉をかけてくれるのなら、
それで良かった。
あの人と交わせる言葉があるだけでも、
自分は天にも昇る心地だったから。
『・・生まれ、変わったら?』
けれど・・困ったようにそう呟いてから、
あの人は黙り込んでしまった。
取るにも足らない質問で、怒らせて
しまったのだろうか。
どうしよう。謝らなくちゃ。
焦って、どぎまぎして。舌がもつれる。
何か言わなくちゃ。どうにかしなくちゃ。
けど、何を言ったら?・・わからない。
どうしたらいいのか、何もかもわからない。
唇を噛む。焦燥と悔しさが
ないまぜになった、苦い味が広がる。
---自分はどうしてこう、うまくいかない。
うまくやれないのか。
『あ、あの!つまらない話をしてしまって』
慌てて顔を上げると、寂しそうな笑顔が
目に飛び込んできた。
あの人が時折見せる
---今にも泣き出しそうな、
胸をギュッと締めつけられるような微笑み。
『・・ああ。ごめんなさい。
少し、思い出してしまって・・そうね』
どこか遠くを見ているような瞳で、
ぽつりぽつりと、言葉を紡ぐ。
『・・幸せな、幸せな人生だったわ。
ひとつひとつ、噛み締めて生きてきた。
本当にたくさんのものを神様が下さった。
幾ら感謝しても足りないくらい、たくさん』
何かを思い出すように視線をさまよわせ、
消え入りそうな声で
「本当にたくさん」と呟く。
『ひとりの人間の身に余るほど、
幸福な人生だった。
だから一度きりで充分。
だからきっと・・もう
いつ儚くなってしまっても悔いはないの』
けれど、と目を伏せる。長い睫毛がけぶり
映る感情を覆い隠す。
『もし生まれ変わって。やり直せるのなら』
----その時、あの人はなんと言ったのか。
覚えているはずなのに、
けして忘れるはずがないのに。
記憶に白く靄がかかって、
その先はわからない。
何度思い返してみても、
その一言だけがぽっかりと抜け落ちて。
ずっと、思い出せないでいる。