のざとの丘
---この薬は、魔法の薬。
わたしの耳元に口を寄せて、
そいつは囁いた。
優しく、甘やかに語りかける唇は、
血のように紅く染まっている。
これさえあれば、時を止めることも、
過去へと巻き戻すことも。
砂時計を片手で弄ぶように、
たやすいことなのだと。
長い舌で軽やかに言葉を転がし、
恍惚の色を隠しもしないで、囁く。
----使ってみたいと思わない?
生温かい吐息が首筋に吹きかけられ、
ゾッと総毛立つ。
じっとりとした、不快な汗が流れ落ちる。
それなのに、熱に浮かされたように
頭が朦朧として---惑わされる。
そいつの言葉のひとつひとつに、
脳が揺さぶられる。
---全てを、巻き戻したいとは思わない?
甘く粘ついた声が、頭の中で反響する。
じわじわと、思考を鈍らせていく。
歌うように楽しげに、そいつは語り続ける。
それは死者を冒涜し、
悪魔に魂を売り渡す行為だと。
生み出されるのは、全てまやかしの、
まがい物の幸福。
----それでも、覚悟があるのなら。
骨ばった指をわたしの肩に乗せて、
鋭く尖った爪を立てる。
----私と共に、帰りましょう?
紅い唇が、ニィと歪む。
『あの日に帰って---やり直しましょう?』