のざとの丘
----さて、どう切り出したものか。
藤間薫子は正座して、
自身に問いを投げかけてみた。
別に考えるために居住まいを正したわけ
ではなく、ここが和室だからという
単純な理由ではあるが。
古びた畳にちゃぶ台がでんと置かれて、
その上に急須やお茶請けやらが
ごちゃごちゃと並べられている。
正面の壁には掛け軸がかけられていて、
典型的な日本家屋の和室といった風情だ。
(最中、初めて食べたけど悪くないな)
甘さガッツリだけど。
ちょっと口の中の水分持ってかれるけど。
母の作るカステラや
バームクーヘンを食べ慣れているので、
あずきの甘さがなんだか新鮮だ。
(・・あ、パサパサには変わりはないのか)
お茶菓子ってどうしてこう、
お茶を欲するように仕向けてくるんだろう。
---違う、脱線してる。
頭を振って、思考を引き戻す。
---あれ、そもそも何考えてたんだっけ?
「若い人にお出しするようなものを
用意してませんで。
せっかくのお客さんに申し訳ない」
向かいに座る老人が白髪頭を掻きながら、
淹れたての湯飲みを差し出してくる。
名前は確か--
三ツ矢とか言っていた気がする。
下の名前までは、覚えられなかった。
「いえ、美味しいですよ。
お茶にも合いますし」
受け取って、ズズーと啜る。苦い。
最中を摘む。甘い。パサパサする。
また飲む。やっぱり苦い。
湯飲みをそっと置いて、唸る。
(・・・ポテチ食べたい)
この際せんべいでも良い。
いや、せんべいが良い。
「そうですか。遠慮せずどんどん
召し上がってください」
こちらの心中を知ってか知らずか、
好々爺然と三ツ矢さんが宣う。
「ええ、ありがたく
・・それで、お話というのは」
このペースで勧められるまま食べ続け
飲み続ければ、いずれ腹がはちきれる。
そうなる前に、本題を進めなくては。
そう決めて苦いお茶をぐっと呷ったとき、
ふと思い出した。
---そっか。さっき考えてたのは、
このことだったんだ。