天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 晃さんが席を立ち、ドアへと向かう。

 そしてあたしの方を気にするようにチラリと見た。

 あたしはそれに気付かないふりで、黙って机やイスを直している。


 やがて諦めたように、晃さんが詩織ちゃんと一緒に会議室から出て行ってしまった。

 遠ざかる足音を確認してから、疲れ切ってドサリとイスに座り込む。


 ……終わった。偽物の夢が終わっちゃった。

 とても良い夢を見ていた途中で、いきなり誰かに揺り起こされてしまったような気持ち。


 ううん。あたしは自分で目覚めたんだよ。

 いつまでも夢を見ていられないから、自分の意思で夢を断ち切ったんだ。

 現実の自分を受け入れたんだからこれでいいんだよ。


 窓の外をボンヤリと眺め、空を見上げる。

 良く晴れた空に、少し流れの早い雲が移動していく。

 風の速さに追いつけず、雲の端が細く千切れて、ポツンと小さく置いてけぼりをくらっていた。


 あぁ、でもさ……

 本当に良い夢だったなあ。

 すごく素敵で、素晴らしい夢だった。

 もう一度……できることなら、もう一度って願ってしまうほどに……。


 でも、夢は夢。偽物がそれを望むことは許されない。

 しょせん叶わぬ……夢。


 唇がワナワナと震えて、置いてけぼりをくらった雲の形がボンヤリ滲む。

 頬が濡れる感触がして、鼻が詰まってグスグスと啜り上げた。


 詩織ちゃんはきっと戻って来ない。

 晃さんも、きっともう二度と、あの日のようには戻って来ない。

 だから安心して泣ける。

 今なら仮面、外せる。


次から次へと頬が濡れ、偽物のあたしは子供のように顔を歪めて泣き続けた。


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