天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
ブラッドストーンの闇と血
 一日中、あたしは仕事をしながら心の中で泣き続けていた。

 栄子主任や詩織ちゃんに「具合でも悪いの?」って心配されるくらい重々しい雰囲気を、無意識に撒き散らしてしまって。

 なんとか頬の筋肉を動かして笑顔を作り、ふたりの心配をやり過ごすのが精いっぱいだった。

 ノロノロと時間が過ぎていき、やっと今日の業務が終了してホッとする。


 詩織ちゃんが「今日はデートだから」と飛んで帰って、あたしは控え室でひとり、ノタノタとメイクを直した。

 こんな状況でも仮面を直すことを止められないなんて、あたしはきっと病気だ。

 こうやってあたしは永遠に仮面をつけ続けるんだ。

 それだけが、唯一あたしに残された、あたしができることだもの。


 トボトボとひとり裏口から出て、あたしは帰路につく。

 薄暗い裏路地を数歩進んだ途端、その暗がりの中から……

「聡美さん」

「わっ!?」

 突然声を掛けられて、文字通り飛び上って驚いた。

 そして声の主を確認して、驚きはさらに倍増する。


「あ、晃さん!?」

「聡美さん、ずっと待ってたんだ」


 晃さんが、暗がりの通路のど真ん中に立っていた。


「待ってたって、あたしを!? ここでずっと!?」

「驚かせてごめん。自分でもこんなストーカーみたいな事、どうかと思ったけど。聡美さん電話に出てくれないから」


 そう言って晃さんは、かなり気まずそうな表情をする。

 あたしはしばらく口をパクパクさせて深呼吸して、とにかく気持ちを落ち着かせた。


 ほ、本気でビックリした! オバケと遭遇したのかと思った!

 あぁ、オバケじゃなくって良かっ……。


 いや! 良くない!

 ある意味、オバケの方がよっぽど良かったかも!
< 130 / 187 >

この作品をシェア

pagetop