天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 あたしは思わず及び腰になる。

 その様子を見た晃さんが、慌てたように話しかけてきた。


「待って! 逃げないで! 謝りに来たんだ!」

「謝る?」

「昨日は、あんな事して本当にごめん! 聡美さんの気持ちも考えずに本当に申し訳なかった!」

「…………」

「もう二度と無理やりキスなんてしない! 約束する!」


 あたしは暗がりの中、彼の表情を伺った。

 真剣な目で、懸命に謝罪しようとしているのが伝わってくる。


 晃さんは、突然キスされそうになった事をあたしが怒ったと思ってる。

 常識で考えれば、そういう結論に行き着くのが一般的だろう。

 それで謝りに来てくれたんだ。こんな暗がりの中、ずっと待っててくれたんだ。

 やっぱり誠実な人。


 そう思うあたしの心に悲しさが込み上げた。

 こちらこそ申し訳ないと思う気持ち。

 なのに、その弁解も謝罪もできない辛い気持ち。

 そして、こんな素敵な人と、もうあたしは二度と……。


「……別にあたし、怒ってなんかいないんです。だからもう気にしないでください」


あたしは悲しい気持ちを押し殺し、精一杯穏やかな声でそう答えた。


「本当!? 許してくれる!?」

「だから許すも何も、晃さんは何も悪くないんですから」


 微笑みながら答えるあたしに、晃さんも安心したように話しかけてくる。


「ああ良かった! 許してもらえないかと思ってたよ! 仲直りのしるしにこれから食事を一緒にどう?」

「…………」

「あ、違う違う! 今日は食事だけ! ていうか、当分のお誘いは食事だけにします。反省してますから。はい」
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