天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 確かにあたしは、あなたに対して酷い仕打ちをした!

 でもあなただって今、あたしに対して残酷な事を要求しているの!


「何にも知らないくせに!」

「知らないよ。だって何も答えてくれないから」


 興奮するあたしとは裏腹に、彼の声はあくまでも静かで硬い。


「キミも知らないだろ? 俺がキミと知り合ってからどんなにバカみたいに浮かれたり、どんなに情けなく落ち込んだりしたか」


 落ち込んだ? 晃さんが?

 いつも爽やかな笑顔で、仕事をしっかりとこなして、冷静で、あたしを励まして支えてくれた晃さんが?


「キミは何も知らない。知りたいと思ってはくれないのか? 本当の俺の事を」


 本当の晃さんを?

 それは、知りたい。当然知りたい。

 あたしと出会ってから、晃さんが何を感じ、何を思ったのか。


「同じだよ。だから俺も知りたいんだ。本当のキミを」


 本当のあたしを、知られてしまう?

 その震えるほどの恐ろしさを思い、目尻の涙が一粒落ちた。


 やっぱりだめだ、限界。これ以上は無理。

 メイクが崩れてしまう。仮面が崩れて暴露されてしまう。

 それだけは許して欲しい。


 この恋が叶わなくてもいい。偽物のあたしがそんな無謀なことは望まない。

 晃さんが本当に望む相手は、本当に彼に相応しいのは、本物だけ。


 ちゃんと分かっているから、どうか救いようのない惨めな結末に終わる事だけは許して欲しい。

 何もかも、全てを姉に持っていかれてしまったあたしの、せめてもの望みを許して。
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