天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「あんたは客じゃない。自分のお金でエンゲージリングひとつ買えないくせに」

「はあ!? まさかお前、このオレが指輪ひとつ買う金も持って無いような男だと思ってるわけ!?」


 あたしに向かって顔を突き出し、小馬鹿にした顔で挑発するように言い返してくる。


「あのねーお嬢さん? これもねー、親孝行なんですよー。男はねー、気楽な女と違ってねー、社会的に色々大変なんですよぉー。分かりましたかぁー?」


 違う。そんなことじゃない。こいつはやっぱり分かってない。

 あたしは、一層低いドスのきいた声で切り返した。


「自分の力で、自分の女を、本当に笑顔にしてやれるようになってから『男』を語れ」


 目の前の男の頬が、憎々しげにヒクヒク歪んだ。

 多分、こいつにあたしの言葉は全く伝わらないだろう。

 そんな可愛い程度じゃない。この男の半端具合は。


 なにが親孝行だ。なにが社会だ。

 もう、いい。こんな救いようのない男に用はない。

 それよりもあたしは、目を白黒させているお嫁さんに向かって静かに語り掛けた。


「別れなさい」

「……はい?」

「別れなさい。こんな男とは」


 お嫁さんは一層大きく両目を見開き、金魚みたいに口をパクパクさせている。

 呆気にとられて様子を見守っていた周りの人達が、次々と口を出してきた。


「さ、聡美ちゃん! いきなり何を言い出すの!?」

「栄子ちゃん!? この子はいったいなんなの!?」

「お前! 頭おかしいんじゃないのか!?」


 あたしはそれらの声を物ともせずに無視して、お嫁さんに話し続ける。


「本当にこの男がいいの? あなたの心はこの男を望んでいるの?」

「…………」

「自分の目で確かめて、自分で納得したの? 『これでいいや』じゃなくて『これがいいんだ』と言える?」
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