天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 晃さん! 晃さん待って! どうか行ってしまわないで!

 心の中で叫びながらひたすら走った。

 無我夢中でしばらくムチャクチャ走り回り、ハッと我に返って立ち止まる。

 無意味に走り回ってどうするのよ!? 彼に連絡をつけるのが先でしょ!? あたしのバカ!!


 慌てて電話してみたけど、通じなかった。

 まさかもう飛行機に乗ってしまったの!? 空の上!?

 ショックで意識が遠のきそうになり、その場にガクッと崩れるようにうずくまる。


 吐き、そう。泣きそう。

 手で押さえた口から嗚咽が漏れた。

 涙と苦しみが嵐のように込み上げてくる。

 絶望という言葉が、あたしの全身を打ちのめそうとしていた。

 ギュッと目を閉じ、嘔吐と涙の熱さに耐える。


 空港……。

 そうだ、空港、行く!


 震える手で涙を拭い、あたしはフラリと立ち上がった。

 よろけて転びそうになって、よそのお宅の塀に寄りかかり、頭をブンブン振る。


 しっかりしろ。まだ間に合うかもしれないじゃないか。

 ひょっとしたらまだ晃さんに会えるかもしれない。

 可能性はあるんだ。だから、諦めるな!!


「タクシー! 止まって!」


 あたしは道路に身を乗り出し、ちょうどこちらに向かって走ってくるタクシーを捕まえた。

 扉が開くのを待つのももどかしく、中に飛び込む。

「空港まで! 全速力でお願い!」


 急いで! 走って! 走って! 走って!

 いっそ空飛んでーーー!!
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