天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「あれ? お客さん、あんたこの前の人じゃないか?」


 この前!? どの前よ!?

 悪いけど今は物凄くせっぱ詰ってるの! 世間話してないで運転に集中してちょうだ……

 と、叫びかけたあたしの口がポカンと開く。


「あ! この前の運転手さん!?」

「おお、やっぱりお客さんだったか。あの後どうだい? あの男に着け狙われてないか?」


 晃さんから逃げ出した時に乗ったタクシーの、やたら警察行きを勧めてた運転手さん!? すごい偶然!


「奇遇だなあ。どうしたんだい? そんなに慌てて」

「そうだ! 運転手さん急いでお願い!」

「なんだい? やっぱり警察行くのか?」

「警察なら別件でもう行って来……いや、そんな事はどうでもいいから、空港へ!」

「空港?」


 あたしのただ事ではない様子に気付いて、運転手さんは眉を寄せる。


「いったいどうしたんだ? また何かあったんだね?」

「あの彼が空港にいるの! 彼が外国へ行ってしまうのよ!」

「あいつが空港? 外国?」


 キョトンとしながらオウム返しに繰り返していた運転手さんが、ハッとして叫んだ。


「高飛びかっ!?」


 なんで!? なんでそうなる!?


「あの野郎! 女に悪さしておいて、さっさと逃げ出すつもりなのか!? そうはさせねえぞ!」

「と、とにかく急いで!」

「まかしとけ! オレにも年頃の娘がいるからよ! 他人事じゃねえんだよ!」


 気合いの入った運転手さんがガンガン飛ばしてくれる。

 あたしは両手をグッと握りしめ、額に当てて懸命に祈った。

 どうか間に合いますように!!

 お願い! どうか、どうか!!
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