天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 青くなったり赤くなったりしているあたしを見て、運転手さんが怪訝な顔をする。

「どうした?」

「お金……忘れちゃった……」

「へ?」

「御免なさい! お財布持ってないの!」


 ブンッと勢いよく頭を下げ、運転手さんに謝った。

 どうしよう! あたしって本当にバカ! しかも運勢最悪!

 やっぱり出がらしの絞りカス? いいとこ全部お姉ちゃんに持っていかれちゃってるのかな!?

 でもこれはあたしの責任だ。


「すみません! 本当に申し訳ないんですけど、今すごく急いでいるんです!」

 そう言ってあたしは自分の名刺を差し出した。

「後で必ず、必ず払いますから!」


 詳しい説明もできないで御免なさい。

 でもお願いですから、どうかあたしを行かせて下さい!

 あたしの今までの人生と、これからの人生がかかっているんです!


 決死の訴えをするあたしの真剣な表情と名刺を、運転手さんは交互に見る。

 そしてすぐにニカッと笑って頷いてくれた。


「おお、いいよ。信用するよ。行きな行きな」

「あ、ありがとう!!」

「いいっていいって。何度も言ってるだろ? オレにも年頃の娘がいるからさ」


 運転手さんの親切が有難くて、涙が出た。

 あたしの事、信用するって言ってくれた。

 誰にも認められないなんてウジウジ僻んで、暗い顔してメイクに固執していた自分が恥ずかしい。

 まるきり、ただの僻み根性だ。


 タクシーのドアから降りて、その場で何度もブンブンお辞儀をする。

 御免なさい御免なさい。ありがとうございます。
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