天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 中に入ったら、どうやって晃さんを探そうか。

 そうだ、アナウンスをしてもらえばいい。呼び出してもらうんだ。

 親戚が危篤だとか何とか言って、泣きながら情に訴えて1分おきに放送してもらおう。

 いっそ、あたしが危篤って放送してもらってもいいかも。

 我ながら今の状況、半分危篤になりかけてる気がするから、あながち嘘でもないと思うし。


 正面玄関……しょ、正面玄関………。


 夢遊病みたいにフラフラと進むあたしの前方に、一台のタクシーが反対方向から走ってきて止まった。

 そのタクシーから降りた人物を見て、あたしの心臓も一瞬止まる。

(あ……)


 あたしは胸いっぱいに吸い込んだ息を吐き出しながら、涙声でその人の名を叫んだ。


「晃さああぁぁーーーーーん!!」


 晃さんが振り返る。

 そしてあたしの姿を見て、目を丸くして呆然と突っ立った。

 あたしは奇声を発しながら夢中で彼に駆け寄り、周りの目も憚らずに思い切り抱き付いた。

 そして、わあわあ大声で泣いた。


「晃さん! 晃さん! 晃さん!」

「さ、聡美さん!? いったいどうしたの!? なにがあった!?」


 あたしは泣き喚き、子どものようにイヤイヤをするばかり。

 涙も鼻水も大放出。髪はボサボサ顔はスッピン。しかも頬には傷のオマケ付き。

 彼に会えて嬉しい気持ちと、彼が黙って行ってしまおうとした事に対する責める気持ちが、ぶつかり合って嵐のように暴れている。

 晃さんはそんなあたしを、力一杯抱きしめてくれた。


「行かないで! 晃さん!」

「え!? なんだって!?」

「タイに移住なんて嫌だ! ううん違う! 行ってもいいの!」

「聡美さん! どうしたんだよ!?」

「行ってもいいから、あたしも連れてって! 晃さんが好きなの!」

「……!」

「晃さんのことが好き! 大好き! だから離れたくないし、この恋を諦めたくない! あなたを諦めるなんて、絶対に嫌だ!」


 あたしは泣きながら、声を張り上げて伝えた。

 伝えたくて伝えたくて伝えたくてどうしようもなかった、あたしにとって一番大切なことを。


「あたし、晃さんの事を愛してる! 何があっても絶対にあなたを諦めない!」
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