天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 そうよ、あたしは晃さんを愛しているの。

 だから、あなたの夢ならそれを叶えるために応援したい。でも離れたくない。

 だったら……一緒に行くしかないでしょう!?


「あたしも連れて行って! あたしもタイで一緒に暮らすわ!」

「ちょ、ちょっと聡美さん?」

「タイ語は全然話せないけど、大丈夫よ心配ない! 人間、為せば成るわよ!」

「聡美さん、落ち着いて頼むから」

「日本大使館はどこですか? と、トイレどこですか? さえ教えてくれれば、後は自分でなんとかするから!」

「タイで暮らすってどういうこと? 移住って言った? 誰かタイに移住でもするの??」

「…………」


 はい?


 滝のように流れていた涙と鼻水がピタリと止まった。

 あたしは目を瞬かせながら、あたしを抱きしめている晃さんを見上げる。

 なんか、話の最大重要ポイントが、お互い微妙に噛み合っていない気がするんですが?


「晃さん、タイに移住するんじゃなかったの?」

「俺が? しないよ?」


 へ!?


「晃さん、タイに行くんじゃなかったの!?」

「行くよ? これから。一週間くらい出張で」

「出……!?」


  出張ーーーーー!?

 出張って、なにそれ! 出張と海外移住じゃまったく意味が違うんですけど!?


「だ、だって、詩織ちゃんにタイに移住して留学するって言ったんでしょ!?」

「言ってないよ! 見学できるならしたいとは言ったけど、移住も留学も俺はひと言も言ってない!」

「し……!」


 詩織ちゃんーーーーー!!

 あなたまた、人の話ちゃんと聞いてなかったでしょおぉぉ!?
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