天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「いろいろ大変だったし、これからお店に戻れば大説教が待っているだろうけど」

 晃さんがあたしの頬に手を当て、上を向かせる。

「お蔭で俺はやっとキミの本音を聞くことができた。感謝だな」


 彼の真っ直ぐな視線を受けて、あたしは自分の状況に気が付いた。

 そ、そういえばあたし、凄惨な状態なんだったわ!

 涙と鼻水の大洪水で、汗臭い。髪はバクハツしているし、完全にノーメイク!

 うわー! 悲惨! 悲惨の極地!

 メイク依存症以前の問題で、普通に女として恥ずべきレベル!


思わず顔を下げて隠すあたしを、晃さんは笑って抱きしめた。


「隠さないで。伝えたろ? 俺は聡美さんが好きで、愛しいって」

「でも……」

「俺の愛するキミが、こんなに必死に俺を求めてくれた証なんだ。愛しい以外のなにがある?」


 あたしはオズオズと顔を上げた。

 目の前には、彼の笑顔。

 出会ったあの日から少しも変わらない、偽りの無い爽やかな笑顔がある。

 あの日からずっと恋して、こんなにも愛しく思う、彼の笑顔が目の前に。


 晃さんが目を閉じ、顔をそっと寄せてくる。

 あたしもゆっくりと目を閉じた。

 そしてこれから受け止めるだろう、初めての喜びを待ち受ける。


 ふわり、と唇に、自分以外の体温を生まれて初めて感じた。

 柔らかい。そして温かい。

 きっとこれは、彼自身の想いとあたしの想いが混じり合ったもの。

 彼と自分を受け止めて、あたしの心は幸福に酔いしれる。

 甘くて、切なくて、煌めいて……

 まるで宝石のようなキス……。


 そっと唇が離れて、晃さんとあたしは見つめ合った。

 恥ずかしくて嬉しくてたまらない。頭から湯気が出そうだし、破裂しそうな喜びが、胸から飛び出してしまいそうだ。

 晃さんの目が宝石のように美しく輝いている。

 きっと、それを見つめるあたしの目も。
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