天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「よせよせ。あんなオバサンの持ってくる縁談なんか、どうせ大したモンじゃないだろ?」

 ビール片手にお父さんが笑った。


「なんだ? 今度の男はどこに勤めてるって?」

「お医者様だそうですよ」

「医者ぁ? なんだそりゃ。そんなのがうちの満幸に釣り合うとでも思ってんのか?」


 グィッとビールをあけ、さらにお父さんは上機嫌。


「満幸ならな、どこかの国の大統領夫人や王妃にだってなれる! なあ満幸!」

「お父さんたら、飲み過ぎよ」

「満幸は、そうだな、きっとモナコのグレース王妃の生まれ変わりだ!」

「やめてったらもう」


 モナコのグレース王妃。

 アメリカのハリウッド女優だったけど、モナコ大公レーニエ3世に見初められて王妃となった。

 シンデレラストーリーの代表格みたいに言われてる。


「満幸王妃とお呼びしなきゃならん日も近いかもな!」

「…………」


 お姉ちゃんは溜め息をついてゲンナリしている。本気で嫌そうだ。

 反してお父さんはますます調子に乗ってきた。


「満幸王妃! 満幸様! わははは」

「ねぇ、お父さん知ってる? グレース王妃ってね、けっこー苦労の多い人生だったんだよなぁこれが」


あたしの白けたセリフに、お父さんの笑い声がビタリと止まった。
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