天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
小学生の頃、通学路に建っているこの店のショーケースを、外から覗き込むのが毎日の日課だった。

店の扉のガラス戸にへばり付き、美しく輝く宝石を十分に堪能してから、夢見心地でフラフラと登下校。

思い出すなぁ。何度も遅刻寸前の危険な橋を渡ったっけ。


そして成長した今、一途な思いが通じたのか、めでたく採用。

こうして店内の高級絨毯に、業務用掃除機を一心不乱にかけている。


店内をぐるりと見回せば、艶のある木目の壁が堂々とした年季と風格を感じさせてくれる。

接待用のテーブルセットは、七宝の装飾が贅沢なアンティーク調家具。

この店のコンセプトは『明治時代の洋館』。

和と洋の入り混じった、日本独特の美意識で満たされた店内は、通好みの高級感に満ちている。


そしてショーケースの中で誇るようにキラキラと輝きを放つ……


燃えるマグマのようなルビーの赤。

紺碧の海の底を切り取ったようなサファイヤの青。

世界遺産の九塞溝を思わせるエメラルドの緑。

そして、それら全ての宝石たちを従えるがごとくに君臨する、ダイヤモンドの威風堂々たる輝き。


あぁ、この充実感。ミチミチと音が聞こえるぐらい、あたしの胸も幸福感ではち切れそう。

槙原 聡美(まきはら さとみ)、今日も幸せです。

帰ったら仏壇にお線香上げて、この幸運をご先祖様に感謝しなきゃ。
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