天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「……い、いや、いいんだ。忘れて」

 えらくバツ悪そうな顔で、晃さんがあたしから視線を逸らした。

 明らかに『ああしまった! ハズした!』って顔に書いてある。


 ……ひょっとして今のって、彼にとってはかなり気の利いたセリフのつもりだったんだろうか?


 そういえば食事の時に、言ってたっけ。

 夢中になると止まらなくなるって。

 もしかしたら、いつも女性に対してこんな風なのかも。


 宝石が大好きなのはいいけれど、ついつい、それ中心にばかり物事を考えがちで。

 相手の興味も反応も考えずに、自分にだけ通用する話題や言動で突っ走る。

 かなり高レベルなイケメンだから寄ってくる女性も多いはずだけど、それで空回りすること多数?


 晃さんは手で口元を覆って、顔を赤らめながら深く後悔しているらしい。

 その様子を見ていたら、可笑しくて笑いが込み上げてきてしまった。


 20倍の鑑定用ルーペねぇ。

 その20倍って倍率部分が、彼的にはイチオシポイントだったんだろうか。

 今までお姉ちゃん目当ての男達から、口当たりの良い言葉は何度も聞いてきたけど。

 ただの一度も聞いたこと無い。鑑定用ルーペなんて盛大な外しっぷりのセリフは。


 だけど今まで一度も聞いたこと無い。

 こんなに裏の無い、本心から出た言葉を男性の口から聞いたことは。


 クスクス笑うあたしを少しばかり恨めしそうに見ていた晃さんも、そのうち一緒になって笑い出してしまう。

 あたし達はベンチに隣同士座りながら、声を上げて笑った。
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