天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 お蔭でそれからしばらくの間、あたしは上機嫌で日々を過ごしていた。

 相変わらずお父さんはデリカシーが無いし、詩織ちゃんは自己アピール満々だし、お姉ちゃんは限りなく美しいけど。

 胸元のエメラルドがあたしの味方。これがあれば大抵のことは笑って片付けられる。


 そんなある日、詩織ちゃんが専務室に呼び出された。

 詩織ちゃんは不安そうな顔で嫌々向かったけれど、すぐに飛んで戻って来てやたらと興奮している。


「ねえねえ聡美ちゃんどうしよう! 困っちゃったー!」

「どうしたの? なにかあったの?」

「今度、宝石商会組合で展示会が開かれるでしょ!?」


 地元の宝飾店の協同組合があるんだけれど、そこで年に一回、大きな展示会を開いている。

 組合の加盟店が協力し合い、様々な種類の宝石を用意して展示し、即売もしている。

 個々のお店が単体で開く展示会とは違って、なかなかハイグレードな内容だ。

 今年の展示会がもう間近に迫っていて、その準備に追われてお店は慌ただしい雰囲気になっていた。


「その展示会でさ、あたしにモデルになって欲しいってー!」

「モデル?」

「うん! 目玉商品のジュエリーを身につけて欲しいんだってー!」


 興奮しながら話す詩織ちゃんの説明は、こうだった。

 展示会では毎年ひとつふたつ、客寄せパンダのように高額なジュエリーを用意する。

 今回の目玉はサファイアとルビー。ふたつを合わせると余裕で一千万円越えするらしい。

 それを身につけて展示会場でお客様をお迎えする、通称『プリンセス』と呼ばれるモデル役に、今年は詩織ちゃんが選ばれたというのだ。
< 73 / 187 >

この作品をシェア

pagetop