天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 運がいいのか悪いのか、それから展示会が終わるまで講習会はお休みになった。

 晃さんの顔を見なくて済むという安心と、このまま顔を合わせないまま気まずくなってしまうのを気に病む心と、ふたつの感情が混じり合う。

 これでいいんだと自分で決めたクセしてグズグスしている。それがとっても情けない。


 詩織ちゃんはあたしの落ち込みなんて気にも留めずに、やれ当日のドレスがどーの、ヘアメイクがどーのと煩いし。

 はっきり言ってそんなのあたしに全然関係ないんだから、少し黙ってて欲しい。


 そんな沈みがちな日を過ごしていたら、店舗に夫婦のお客様がみえた。

 仲良さそうに肩を並べてショーケースを覗き込むふたりに、栄子主任が声を掛ける。


「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「ああ、そのぉ、真珠を探しているんだけどね」

「来月、真珠婚式なものですから」


 真珠婚式? ああ。

 結婚記念日の周期ごとに、その名に因んだ品物をプレゼントして絆を深めるっていう習慣。

 最近じゃ地域ごとに結婚周期の呼び名も、周期そのものも変化してきてたりするけど。

 それでも普遍的なものはある。


 結婚25周年が銀婚式。30周年が真珠婚式。

 35年が珊瑚婚式。40年がルビー婚式。45年がサファイア婚式。

 50年が金婚式。55年がエメラルド婚式。

 60年がダイヤモンド婚式。75年がプラチナ婚式。


 75年って、ちょっとした近未来よね?

 このご夫婦、真珠婚ってことは結婚30周年なんだ。

 ひと口に30年っていっても凄い。あたしの人生よりもずっと長く一緒に生活しているんだもの。
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